臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 石山が訊いた。

「去年の十二月のスパーですか?」

「そうさ。清水が兵藤の右フックで倒された二週間後に、清水の右ストレートのカウンターで兵藤が倒されたんだ」

「あの時の二人の倒れ方はひどかったですよ。清水は前のめりで、兵藤は大の字に倒れましたからね」

「兵藤が、左ストレートを真剣に強くしようと思ったのは、その時からだな」

「次の日からでしたよね。兵藤がインターバルも休まず、サンドバッグに左ストレートをずっと打ち続けたのは」


 石山が言った後に、バチンと音が鳴った。

 兵藤の右アッパーのカウンターが、相沢の顔面にヒットしていた。


「ストーップ!」

 飯島は声を張り上げ、カウントを数え始める。試合が近い相沢にダメージが残らないよう、早目にダウンを宣告したようである。


 スパーリングが続行される直前に、清水が怒鳴った。

「相沢! 相手がカウンターを打ってくるんだったら、やる事があんだろ?」

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