臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 接近戦になった。

 身長百七十八センチの森谷と、百六十二センチの石山とは、かなりの差がある。

 揉み合いの距離になると、長身の森谷は長い手を持て余した。


 兵藤が呟いた。

「あれは、インハイと国体予選の再現だな」


 森谷は、二つの大会の県予選で、同じ相手から判定負けを喫していた。

 ガッシリした背の低いインファイター(接近戦を主戦場にするボクサー)に、強引に接近されてロープ際まで押し込まれ、得意の中間距離でのカウンターを出せないまま、三ラウンドを過ぎてしまったのだ。


 このスパーリングでも、クリーンヒットこそしないものの、石山が放つ強いショートパンチが目立っていた。


 だが、接近戦で優勢であったにもかかわらず、石山は大きく下がって距離を取った。


 清水が不思議そうな顔をして言った。

「ありゃ? 石山は自分から離れちゃったよ」

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