臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
「自分のボクシングが出来ないで負けるのは、打ち合って倒されるより悔しいと思うんですよね。……それに、ちょっと気になる事があるんですよ」


 石山が話し終わると、飯島は顎に手を当てて考えていた。そして、開始直前にようやく口を開いた。

「このラウンドだけだぞ。……危なくなったら、すぐに止めるからな」


 開始のブザーが鳴った後に、兵藤が言った。

「石山は国体三位でしたが、最後の試合は余程悔しかったんでしょうね」

「俺もビデオで見たんだが、クリンチワークの上手い奴に、徹底して左強打を殺されて判定負けだからな。自分のボクシングを出来なかった森谷の悔しさが、痛いほど分かるんだろうな」


 清水も話に加わった。

「だから先生は、その気持ちに応えてガチスパーを許可したんですか?」

「違うよ。俺も気になる事があったからさ。……ただ、石山に怪我でもされたら、俺の監督不行き届きで責任問題になるんだよなぁ」

 話の最後になると、飯島はボヤき気味になっていた。
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