臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 引きを意識した森谷のショートパンチは鋭くなり、体重差もあって、打ち合いは互角以上になった。

 飯島は、リング上から目をそらさずに答えた。

「森谷は、お前や兵藤とスパーする時が多かったから、ガチで打ち合う場面は少なかったんだよ。いざという時に打ち合えないボクサーは、ここ一番で勝負に出られないからな」

「俺もそうですが、兵藤もファイターじゃないですからね。……先生が気になってたとこって、その事なんですか?」

「それもあるが、もっと気になってるのもあるんだよ」


 飯島がそう言った時、石山は一旦バックステップをして飛び込む姿勢になっていた。

 石山がピクッと動くと、森谷は左ショートフックを振っている。

 だが、石山は飛び込んではいなかった。

 フェイントで空振りさせた石山が、今度は本当に飛び込んで左フックを放った。

 目のいい森谷は右ガードを上げて反応したものの、石山のパンチは右グローブをかすめて顔面にヒットした。
< 38 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop