臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 飯島が再び口を開く。

「俺が気になってたのはコレなんだよ」

「どういう事ですか?」清水が訊いた。

「森谷は、カウンターを打った後に動きが止まるんだよ」

「そう言えば一ラウンド目も、森谷がカウンターを打った後を、逆に石山から狙われてましたもんね」

「相手のレベルが上がれば、フェイントもあって、カウンターも当たりにくくなるからな」


 飯島はそう言うと、リングに向かって声を張り上げた。

「森谷、カウンターを打った後も頭の位置を変えろ! 上手い奴には当たらない時が多いんだからな」

 接近戦で打ち合っている森谷は、頷く余裕が無いようである。


 ショートレンジでの打ち合いは、ラウンド終盤になっても続いている。

 森谷の放つ左ショートフックが、時折バチンと音を立てて石山のガードに当たった。


 飯島はニヤリと笑った。

「梅田先生とした左ショートカウンターの練習が、思わぬ形で生きてきたな」
< 39 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop