臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 石山は椅子に座ったまま答えた。

「森谷は、カウンターにこだわり過ぎていると思ったんです」

「もともとこのスパーは、森谷の左ショートカウンターの練習だったんだからな」

「それは分かっているんですけど、俺が言いたいのは別の事なんですよ」

「ん、どういう事だ?」

「あまり上手く言えないんですけど、このスパー以外でも、アイツはカウンターを当てる事自体が目的になっているような気がしたんですよ」

「……試合でもか?」

「そうですね。森谷は自分のパンチが当たってチャンスの時でも、追撃をしないで、カウンターを狙って待っている時があったんですよ。見ていて勿体無かったんですよね」

「奴が勝った試合は全部判定だからな。森谷が先手で打たない事や、カウンターを打ったら動きが止まるって事も、カウンターを打つのを目的にして戦ってるんだったら、そうなる訳だ」

 飯島はそう言うと、腕を組んで考えていた。


 しばらくして飯島が再び口を開いた。

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