臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
赤コーナー側に立っている清水が言った。
「先生、大崎が右クロスを覚えたいんだったら協力しますよ」
「お前、俺の指示が聞こえてたのか?」
「……スパーをしてると分かっちゃうんですよ。大崎のリズムが急に変わりますからね」
「自分でもバレバレなのが分かるんですよね」
大崎はそう言うと、考えているような表情になった。そして彼は飯島に質問した。
「先生、新人戦まであと一週間ですよね。使えるかどうか分からない右クロスより、別の技を強化した方がいいんじゃないですか?」
「……いや、今は右クロスを練習するんだ。後々の為にな」
「……はい」
大崎は返事をしたものの、まだ納得していない様子である。
すると、石山も口を開いた。
「お前に右クロスは必要だよ。訳は次のラウンドが終わってから話すからさ」
「あっ、分かりました」
大崎は素直に返事をすると、軽く体を動かし始めた。