臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 この大会、リングから五メートル程離れた所に簡易フェンスが作られ、応援する青葉台高校の部員達は、赤コーナー側のフェンス際に集まっていた。

「横山、落ち着けよ」

「横山さん、リラックスリラックス」

 青葉台高校キャプテンの松岡と坂田裕也が声を出すと、横山は頷いたものの、明らかに緊張した顔つきである。


 次の試合に出場する選手は、赤と青コーナー後方にある折り畳み式の椅子に座っていた。

 赤コーナー側後方の椅子には、バンタム級の第一試合目に出場する大崎が座っている。


「卓、深呼吸だ! お前は落ち着けば勝てるんだからな」

 大崎の声に力強く頷いた横山は、大きく深呼吸をし始めた。


 不思議そうな顔をする一年生達に、石山が言った。

「大崎と横山は、家も近所で親友なんだよ」

「だから大崎先輩は、減量しないでバンタム級で出るんですね。……横山さんて、顔の割に気が弱そうですね」

 有馬がそう言うと、石山は、つり上がった眉と鋭い目付きの横山を見て再び苦笑した。
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