臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 最初の右パンチこそ貰ったものの、横山は固いガードで後続のパンチを防いでいた。


 安全を考慮している為か、高校ボクシングの場合は、防戦一方になると立ったままダウン(スタンディングダウン)をとられる時が多い。

 横山もそれは分かっているようで、ロープを背にしながらも時折パンチを返していた。

 彼が軽い右ストレートを放った時、相手の打った右ストレートが先にヒットした。

 レフリーが両者の間に割って入り、横山にカウントを数え始めた。

 ラウンドは、まだ四十秒を過ぎたばかりである。

 同一ラウンドで二度ダウンすると、RSC(レフリー・ストップ・コンテスト)負けにされてしまう高校ボクシングのルールでは、ラウンド前半のダウンは精神的にダメージが大きい。


 萎縮しながらファイティングポーズをとる横山に、大崎が声を張り上げた。

「卓、俺と優勝するんだろ!」


 その声を聞いた横山は、大崎を見て二度頷いた。

 そして一度両手を下げ、その場で軽く足踏みをするようなステップをしながらカウントを聞いている。

 カウンター気味に右ストレートを貰った横山だったが、彼自身は軽いパンチを打っていたせいか、ダメージは軽いようである。

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