臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
「インハイと国体予選の時、先輩は奴から圧勝したように見えたんですが……」

 有馬に言われた石山は、インターハイ予選では二ラウンドで、国体予選では一ラウンドで横山にRSC勝ちをしていた。


「インハイの予選の時は苦戦したんだよ。一ラウンド目の終盤、右のカウンターで一瞬効かされたしな」

「そんな風には見えなかったです」

「そりゃ必死に誤魔化すさ。効いてんのが分かったら、相手はかさにかかって攻め込んでくるからな。……ロングレンジ(離れた間合い)での横山は、本当に厄介だぞ」

「ショートレンジ(接近戦)ではどうなんですか?」

「俺とやった時はカラキシだったな。接近してからは俺が打ちまくってRSC勝ちだったんだが、今はどうなってるか、まだ分からないぞ」

「……そうですね」

 有馬がそう答えると、石山はリング上を見ながら言った。

「次は大崎の試合なんだし応援に集中するぞ。アイツは調子にノリ易いタイプだから、軽いパンチが当たっても歓声を挙げてやるんだ。分かったな」


 有馬と白鳥は返事をして、赤コーナー側のフェンス際へ歩いていった。

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