臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
石山が再び口を開いた。
「先生、大崎にアレを打たしてもいいんじゃないんですか?」
「アレって、お前が先週から教えてたヤツだろ? ……立花(高校)の荒川も見てるんじゃないのか?」
立花高校の荒川選手は、バンタム級で大崎と共に優勝候補の一人である。トーナメントでは反対側のブロックにいるので、大崎が勝ち進めば、決勝で当たる確率が高い。
石山が後ろを振り返ると、三試合後に出場する荒川は、軽くシャドーボクシングをしながら試合を見ていた。向こうも、大崎の試合が気になっているようである。
石山が振り返って言った。
「確かに見てますね。……でも、今の相手だったら一発目が当たりそうなんで、アレは分からないと思うんですよ」
飯島は試合を見ながら腕を組んだ。
「いいや、次のラウンドは打たせないぞ。……打たせるとしたら、あの大振りが直ってからだ」
「え、どうしてですか?」
「もしアレが外れたら、打ち合いになるからな」
「……そうですね。その時は、大崎の回転の速い連打が必要ですからね」
石山は納得したようである。