臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 リング上では、森谷が再びロープを背負った。

 だが森谷は、フットワークを使わずにジッと相手を見ていた。その場で迎え打つようである。


 森谷が、右肩と右グローブをピクッと動かす。

 相手は反応し、大きくバックステップをした。


「下がるんじゃねーぞ」

「ポイントは負けてんだからな」

 相手側コーナーの応援席から、叱咤する声が響く。


 飯島が試合を見ながら言った。

「前のラウンド、森谷のタイミングのいい右がよく当たってたからな」

「何か森谷は変わりましたね」


 飯島は「分かるか?」と言って、兵藤に視線を移した。

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