臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
「何となくですけど、石山とスパーで打ち合ってから、少し余裕が出てきた感じなんですよね」

 兵藤が話し終わると、飯島は試合を見ながら頷いた。

「そうだな。石山とスパーをして、接近戦で戦える事が分かったからじゃないか」


 森谷はロープを背にしたまま、右グローブを放り投げるように軽く突き出した。


「アイツ、誘ってるな」石山が小さく笑った。


 森谷が再び右グローブを突き出した時、相手は左へダッキングしてから大きく踏み込み、左ストレートをボディーへ打った。

 森谷は、体を絞るようにしながら左フックを放っていた。

 両者のパンチが、相打ちのタイミングでヒットした。

 相手の左ストレートは森谷の右腕でブロックされていたが、森谷の左フックは相手のテンプル(こめかみ)を捉えていた。

 バチンとパンチの当たる音がした後、相手は大きく腰を落とす。バランスを崩した相手は、後ろ向きで走るような格好になった後に、右グローブをマットに付けていた。

 レフリーが割って入り、カウントを数え始める。
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