臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 康平は、自分が無意識に右手を握っていることに気付き、慌てて手を開いた。だが、有馬にからかわれていたのは白鳥だった。


「……あ、いや、凄いなって思って」

 白鳥は恥ずかしいのか、顔を赤くして答えた。

「似合わないんだよね白鳥君。君に握り拳なんてさ」

 続けてからかう有馬だったが、やけにテンションが高くなっていた。どうやら彼も、ヤル気になっているようである。


「ちょっとトイレ」

 健太がボソッと言って、試合場を出ていった。



 残りの三試合が終わり、永山高校のボクシング部員達は、帰り支度をしようとしていた。


 相沢が言った。

「もうすぐ帰るんだが、片桐はどうしたんだ?」

「森谷先輩の試合の後に、トイレへ行くって言ってました」

 康平が答えると、相沢は首を傾げた。

「森谷の試合は、三十分以上前に終わってんだよな。……長くねぇか?」


「ちょっと見てきます」

 康平はそう言うと、健太を探しにいった。

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