臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 インターハイ県予選と国体県予選の時の黒木は、オーソドックススタイル(右構え)だが、ガードは低く、ヘソの高さで構えていた。

 だが、今日のシャドーボクシングを見ると、右ガードは顎の横にピタリと付け、前にある左ガードは、左のコメカミを守るように高く上げている。

 シャドーボクシングには、ディフェンスの動作も混じっていたが、以前のように上半身の動きで避けるのではなく、フットワークとブロッキングで防ぐスタイルのようだ。


 相沢が話に加わった。

「あれは、リカルド・ロペスのスタイルだよ」


 有馬が訊いた。

「そのボクサーって有名なんですか?」

「有名も何も、アマでもプロでも無敗だった伝説のチャンピオンさ」


 石山が言った。

「確かにそっくりだな。……そう言えば、黒木が国体で負けた時に、親父さんにスタイルの事をこんこんと言われてたんだよな」

「国体から約一ヶ月でスタイル改造ですか? ……それにしては、フォームが馴染んでいる感じですよね?」

 相沢はそう言って首を傾げた。

< 87 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop