臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 第一試合の選手と入れ替わって、黒木がリングに入った。


 開始のゴングが鳴るまでの間、黒木は構えたまま、ずっと膝でリズムを取っていた。


 飯島が言った。

「アイツ、試合直前もリカルド・ロペスになりきってんじゃないか?」

「そうみたいですね」

 石山が答えた時に開始のゴングが鳴った。

 黒木は前に出ようとせず、ガードを上げ、細かいステップで左右に動きながら様子を見ていた。

 相手の方は、インターハイと国体の県予選で黒木と対戦している。二度ともRSC敗けを喫していることもあってか、前に出ていなかった。


 共にパンチらしいパンチを出さずに二十秒程経過した。その時レフリーが、両拳をぶつけるようなポーズをしながら二人に注意をした。


 有馬が質問をした。

「飯島先生、あれは何の注意ですか?」

「二人共もっとパンチを出せっていう注意さ。アマチュアの試合は短いから、積極的にパンチを出さなきゃならないんだよ」

 飯島はそう言うと、怪訝な顔になった。
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