戦乙女と紅~東西動乱の章~
第一章 侵攻前日
風はまだ冷たい。
夜ともなれば尚更だ。
頬を撫でる風は時に刃、時には針のようであり、吹き付ける度に痛みにも似た寒さを私に与える。
「乙女」
私は呼ばれるまで、どうやら眠っていたらしい。
「ん…あ、何だ、紅?」
ハッと顔を上げる。
女神国の砦門、見張り台。
私は夜更けにここを訪れ、どこまでも続く地平線を見据えていた。
…いつ眠りに落ちたのかは自分でもわからない。
次に目を覚ますと、壁にもたれかかり、ウトウトと舟を漕いでいた。
「器用な奴だ。こんな所で眠ると風邪をひく」
いつの間にか赤い外套をまとった男が私のそばに立ち、その外套で私を包み込むようにしていた。
見ようによっては、私の小柄な体が彼に抱きしめられているようにも見える。
「は、放せ。大丈夫だ」
少し強めに彼を突き放そうとする。
しかし。
「眠るのならば部屋に戻れ。見張りを続けるならばこのままだ」
相変わらず我が女神国の武術指南役殿は意地が悪い。
私を外套で包み込んだまま、紅の異名を持つ男は離れようとはしなかった。
夜ともなれば尚更だ。
頬を撫でる風は時に刃、時には針のようであり、吹き付ける度に痛みにも似た寒さを私に与える。
「乙女」
私は呼ばれるまで、どうやら眠っていたらしい。
「ん…あ、何だ、紅?」
ハッと顔を上げる。
女神国の砦門、見張り台。
私は夜更けにここを訪れ、どこまでも続く地平線を見据えていた。
…いつ眠りに落ちたのかは自分でもわからない。
次に目を覚ますと、壁にもたれかかり、ウトウトと舟を漕いでいた。
「器用な奴だ。こんな所で眠ると風邪をひく」
いつの間にか赤い外套をまとった男が私のそばに立ち、その外套で私を包み込むようにしていた。
見ようによっては、私の小柄な体が彼に抱きしめられているようにも見える。
「は、放せ。大丈夫だ」
少し強めに彼を突き放そうとする。
しかし。
「眠るのならば部屋に戻れ。見張りを続けるならばこのままだ」
相変わらず我が女神国の武術指南役殿は意地が悪い。
私を外套で包み込んだまま、紅の異名を持つ男は離れようとはしなかった。