戦乙女と紅~東西動乱の章~
少し王宮のテラスに出てみた。
…夕暮れの冷たい風は、今後について考えあぐねて沸騰した私の頭を冷やしてくれる。
この北風もあと一月もすれば、新たな生命の息吹を祝福するかのような温かな春風に変わるだろう。
その頃には、この地も穏やかな日々を迎えていればいいのだが。
そんな事を考えていると。
「また綺麗事か?」
突然背後で声がして、私は身構えるようにして振り返った。
「……気配を殺して近づくなと、何度も言っている」
私は背後に立つ長身の男…紅を睨んだ。
「仮にも騎士を自負するのならば、いついかなる時も油断などせぬ事だ」
相も変わらぬ皮肉を口にして、紅は私の隣に立った。
「…戦になる事を恐れるな」
単刀直入に。
彼は私の気に病んでいる事を躊躇いなく指摘した。
「お前の目指す理想には、数多くの屍が必要となる。そしてその屍の倍以上の、命を拾う者が現れる。獅子王との一件で、お前はそれを自覚した筈だ」
「しかし…」
戯言なのはわかっている。
甘い理想なのはわかっている。
それでも考えてしまうのだ。
東方同盟も、帝国も、兵も民衆も。
誰一人命を落とす事なく、この地を平定する手立てはないものかと。
…夕暮れの冷たい風は、今後について考えあぐねて沸騰した私の頭を冷やしてくれる。
この北風もあと一月もすれば、新たな生命の息吹を祝福するかのような温かな春風に変わるだろう。
その頃には、この地も穏やかな日々を迎えていればいいのだが。
そんな事を考えていると。
「また綺麗事か?」
突然背後で声がして、私は身構えるようにして振り返った。
「……気配を殺して近づくなと、何度も言っている」
私は背後に立つ長身の男…紅を睨んだ。
「仮にも騎士を自負するのならば、いついかなる時も油断などせぬ事だ」
相も変わらぬ皮肉を口にして、紅は私の隣に立った。
「…戦になる事を恐れるな」
単刀直入に。
彼は私の気に病んでいる事を躊躇いなく指摘した。
「お前の目指す理想には、数多くの屍が必要となる。そしてその屍の倍以上の、命を拾う者が現れる。獅子王との一件で、お前はそれを自覚した筈だ」
「しかし…」
戯言なのはわかっている。
甘い理想なのはわかっている。
それでも考えてしまうのだ。
東方同盟も、帝国も、兵も民衆も。
誰一人命を落とす事なく、この地を平定する手立てはないものかと。