今年の夏休み

「それより、お酒。自分の適量知っておいた方がいいよ」
「ワタナベはどうしてんの？」
「アルコールね、好きじゃないんだけど、
　体質的に結構強いみたい。そんなに酔わないの。」
「へ、へぇ～」
「飲んでる振りしてこっそり烏龍茶にしてもらったり、
　他の人達もそうしてる」
「でも年ばれたらヤバいんじゃん？」
「それはその時、かな」


ワタナベは目を細めて笑った。
その笑顔を見て、なんとなく思い出したんだ。


キャバクラのトイレでゲーゲー吐いていた時、
「大丈夫？」と誰かが背中を優しくさすってくれ、
吐捨物で汚れた顔をおしぼりで拭いてくれた上、
俺の身体を支えて、コップを掲げて冷たい水を飲ませてくれた。
そのさすってくれるリズム、とか強さの加減が絶妙に心地よかった。
べたべたの顔をさっぱりと拭き取ってくれた冷たいおしぼり。
空っぽになった胃に染み渡るミネラルウォーター。
心配そうに俺の顔を覗き込むのは、派手な化粧をしてはいたが、ワタナベだった。
「大丈夫？」って聞かれて、
頷くと、「よかった」って目を細めて笑った。
そして、肩を貸してくれて、従業員控え室のソファーに寝かせてくれたんだ。