今年の夏休み
「ありがとう」
「は?何が?」


話の流れから噛み合わず、
自分でも変だなって思ったけど、
ちゃんと礼を言っておきたかった。

その時、電車が急カーブし、
ぐらついたワタナベに、腕を掴んで支えてやった。
ワタナベは「ありがとう」と小さな声で言って俯いた。
いつもの白いうなじが、赤く染まっている。
それでこっちまで妙に恥ずかしくなってドキドキした。


「あ、あとさ、もう1こ聞きたいことあって」
「何?」
「俺…そのぉ、酔ってて…服脱いだりとか…しなかったよね…?」
「ああ、ああいうことする人珍しくないから気にしなくていいよ」
「え…ってことはやっぱ脱いだんだ…」
「うん」


どこまで脱いだ、かは怖くて聞かなかった。
< 22 / 57 >

この作品をシェア

pagetop