今年の夏休み
バイトが終わってから、
ワタナベとレンタルビデオ屋で待ち合わせをした。
学祭実行委員で役割分担をして、
俺は当日学内放送で流すBGMの曲選び担当になった。
MDに提出っていうから、
いろいろ流行りの曲なんかを借りてこようと、
ワタナベに付き合って貰ったのだ。

ワタナベとは、よく会っていた。
男性っぽいサバけた性格だから気を遣わないでいいし、
かと言ってワタナベは色々と女性らしい小さな気遣いを見せてくれたりして
一緒にいて素直に居心地が良かった。

バイト先からレンタルビデオ屋まで自転車で向かう途中、
日が落ち掛けていて、もう直ぐそこに夜は来ており
空は深いすみれ色と濃厚なオレンジのグラデーションが
何とも言えない郷愁を誘い、
自転車を漕ぎながらふいに泣きそうになる。
店の前で待っているワタナベの影が長細く俯いていた。

ワタナベは、ワタナベの家で見るようなカジュアル過ぎる格好ではなく
ジャケットを羽織り、ぴっちりしたスキニージーンズに、
踵が高い先が尖った靴を履いていた。
よく見ると化粧なんかしてるんじゃないのか?


「よっ!何か今日あるの?いつもと雰囲気違うじゃん?」
「ああ、うん、この後バイト入ってるから」


バイト…ワタナベはキャバクラに年齢をごまかして勤めていた。

うん、確かに高校生には見えないな。
バイト先には20歳とサバ読んでるみたいだけど、
この格好なら疑われることもないだろう。
そんな場所でバイトしているということは、わかってはいた。
でも何だろう…胸の奥がもやもやして気持ち悪い。


「仕事どう?」
「別に。適当にやってるよ」
「ふぅん」


曖昧に返事をしながら店の中に入り、CDを選び始めた。
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