今年の夏休み

「やっぱりこっちも捨てがたいよね」


振り返ったワタナベから、ふわりといい香りがした。
いつもは香水なんか付けないくせに。
誰のために付けるんだろう?
誰を思って普段しない化粧なんかをするんだろう?

イラつく思いを封じ込ませるようにじっと考えていたら
「富永くん?」
と顔を覗き込まれた。


「ね、本当にまだそのバイト続けんの?キャバクラ」
「は?何?いきなり」
「客だってさ、いろんな奴いるんだろ?
 その…触られたり…とか…セクハラされたりとか…」
「あ~、まぁね。でもあんまり酷いと支配人に言うし、
 それでお金貰ってるんだからしょうがないよ」


ワタナベは、20歳の大人のように15歳のわいに微笑みながら言った。
俺は憮然として、黙り込むしかなかった。
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