今年の夏休み
「この間も帰り道付けられてるような気がした」
「心当たりはあるの?」
「わからないけど…お客で1人しつこい人がいるの…その人に似てるような気がして」
「しつこいって?」
「店外デートをしつこく迫られたり…エッチなこと聞かれたり…」
「え…ど、どんなこと、聞かれるの?」
「どういうエッチが好きなんだ?とか…最近いつやったの?とか…」
「…最悪だな」
「ちょっとおかしいなぁ、なんて思ってたんだけど」
「ワタナベ、鈍いんじゃねぇの?ちょっととかじゃねぇだろ!」


思わず大きな声が出てしまった。
ワタナベは俺の声に驚いてびくっと肩が震える。


「父ちゃんや母ちゃんはこのこと知ってんの?」
「…知らない。危ないって知ったら辞めさせられちゃうもん」
「おまえさ…金のためって言うけど、そんな嫌な思いして金欲しいのかよ?」
「…そんな…こと…富永くんには関係ないじゃん…」
「か、関係ないけどさ…あんな電話あったら、誰だって心配するだろ?」
「心配して、なんて言ってないじゃん」
「じゃぁ、呼び出したりすんなよな?迷惑だろッ?」


嫌な沈黙が2人の間に流れた。
言い過ぎた、と思った。
ごめん、と言おうかどうか迷っていたら、
ワタナベが小声で
「悪かったわね、迷惑かけて」
と言い、
「もうここでいいから」
と小走りに歩き始めた。

まだワタナベの家まで歩いて10分くらいある。
時刻はもう直ぐ2時になろうとしていた。

ここでいい、っつったって放っておけるわけないだろう?

ワタナベが歩く少し後ろをチャリを押しながら着いて行った。
ワタナベは、振り返ることもせずまっすぐ歩いていく。
家に着いたのを確認して、俺が「じゃ帰るね」と言ったら
ワタナベは、ちらりと俺の顔を見てから門を閉めた。
< 42 / 57 >

この作品をシェア

pagetop