今年の夏休み
ワタナベが興奮したように、俺の肩を叩いて、
「ほら、やった!!」
と、唇を吸い出したカップルを興奮しながら無遠慮に見ている。
そんなバシバシ叩いて痛いっつーの。


「私、生でキス見るの初めてかも」
「俺も…」
「なんか見てる方が恥ずかしいね?」


ワタナベがニコッと俺の顔を覗き込み笑った。
ワタナベがTシャツにジーンズとラフな格好をしてくれてて良かった、と思った。
こんな時、肩や太ももがむき出しの格好をされていたら
いくら相手がワタナベだって、俺は自分を抑えることができたかどうだか。

ワタナベは隣で「ひゃ~」とか「ひえ~」とか小さく叫びながら
暫くくっついている2人を見ていたけれど、
飽きてきたのか、大きな欠伸をしている。
そしていきなり俺の肩にもたれかかってきた。


「ちょッ…、なんだよ」
「眠い、寝る」
「近いって!く、くっつくなよ」
「いいじゃん。枕になってよ」
「…枕って」
「30分したら起こしてね」


有無を言わさず、ワタナベは俺の肩に頭を置いて寝てしまった。

何なんだ、全く。
スゥスゥ、と寝息までたてやがって。

横目で寝顔を覗くと、街灯の明かりに灯されて睫毛の影ができている。

マッチ棒、乗るかな?

小さく開いた唇は艶やかで柔らかそう。
唾を飲み込むと、ごくりと喉が鳴った。
さっきのカップルのベタベタのキスを思い出し、慌てて首を振る。

煩悩、沈まれ、沈まれ。

あどけない顔で寝てしまったワタナベに「風邪ひくだろ」と独り言を言い、
着ていたウインドブレーカーを脱いで掛けてやった。
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