佐藤くんは甘くない
───ばちん、と耳元で、響いた。
一瞬、何の音なのか分からない。
ただ、目の前で酷く怯えた佐藤くんが、右手を振り上げているのだけが視界に入った。
「───ひっ、」
すぐ近くで、ひまりちゃんが悲鳴を上げる。その声で、私はようやく、理解した。ああ、そうか。私は、佐藤くんに殴られたのか。
痛みは、無かった。
ううん、あったのかもしれない。でも、今の私にはそんなことを感じる余裕だってなかった。
凍りついたように、時が止まったみたいに、誰一人として動かなかった。
そして、最初に口を開いたのは───
「───ぁ、」
佐藤くん、だった。