佐藤くんは甘くない
「───あっぐ、」
足がもつれる。
道行く人が、訝しげに俺のことを見てくる。体を突き刺すような視線から逃げるように、ただひたすら重い足を上げる。
そのたびに、地面に黒い斑点がぽつぽつと浮かび上がっていく。
ぎゅうっと握りしめた、右手の甲がちくり、と痛む。
もう、痛みなんて遠のいたはずなのに、それは、残留したままだった。唇を噛みしめる。それだけで、息が上がりそうだった。苦しくて、苦しくて、痛くて、苦しかった。
───なんで。どうして、俺は。
あの時の目が、忘れられない。
揺れる視界の中で、やけにはっきりと浮かぶ見開いた瞳。それは、信じていたものに裏切られたときの色だった。
───こんなこと、すべきじゃなかった。