佐藤くんは甘くない
月明かりが、ますますその女性をか弱く見せている。
無理に笑おうとする、色の薄い唇も、物憂げに伏せる長い睫毛も。
……もしかして、この人は。
私の頭の中に、佐藤くんのおじいちゃんとした会話がよぎる。
「あなたは……きっとあの子から、信頼されているのね」
「……」
あなた、は。
つまり、裏を返せば自分は信頼されていないのだと断言しているように聞こえた。
何も答えられない私を、申し訳なく眉を歪めて、切なげに口元を上げる。
『───那月の母親は……、那月を置いて、出て行ってしまったんだ』
深淵のように深く、そして月夜のように暗い、その表情がぼんやりと浮かぶ。何かを堪えるように、固く握りしめた拳は皺と染みが覆っていた。
「きっと、あの子は……私には会いたくないだろうから、……もしよかったら、代わりにこれを渡してもらえないかしら。
もう、私からのものは、何も受け取ってくれないだろうから」