佐藤くんは甘くない
屋根から落ちてきた雨が、ぽつりぽつりとまた落ちていく。
そして、数えることも忘れるほどの時間が経った後───佐藤くんは、しゃくりあげながら、それでも目をこすって、呟いた。
「……ありがとう」
今までに聞いたことのない、はっきりとした芯のある声だった。
「ありがとう、俺の妹で、いてくれて。ありがとう。
俺も───俺も、柚月が、大好き」
そういった瞬間、視線の先にあったぼんやりとした二つの人影が、薄れていくような気がした。
次第に、透明になっていく───それと同時に、降り続いていた雨が上がっていく。
さっきまでの雨が嘘だったんじゃないかと、思うほど雲が消えていく。漏れ出す太陽の光が、まるで天国へ向かうための梯子のようで。
小さく息を吸って、私は言う。
「───佐藤くん、」
「……うん」
「帰りましょう、私たちの街に」