佐藤くんは甘くない
雨が止んだので、帰る旨を新谷さんに告げるとそうかい、と小さく微笑んでわざわざ玄関まで見送ってくれた。
門扉を潜り抜けて、歩き出そうとしたその時。
「───また、おいで」
その声に、足が止まる。
振り返ると、新谷さんが小さく振っていた手を下ろして、もう一度言った。
「また、おいで。この近くに、早苗さんのお墓があるんだ。
今度は、那月くんのお父さんとお母さんを連れて」
ひゅう、と乾いた喉の音が聞こえた。佐藤くんが、唇を噛みしめながら新谷さんを見つめる。
あの時、どうして新谷さんが嘘をついたのか、私には少しだけ分かった。
彼は、きっと最期の最後まで佐藤くんを想い続ける早苗さんに、ただ小さな意地悪をしたかっただけなんだと。
そして、亡くなってもなお、佐藤くんを想う思いに、嫉妬した。だから、嘘をついた。
大きく息を吸って、それから佐藤くんは力強く頷いた。
「いつか、きっと。もう一度、逢いに行きます」