佐藤くんは甘くない


***


「私、佐藤くんに少しだけ言っていないことがあるんです」


がたん。

電車が大きく揺れる。


特に佐藤くんからの反応がなくて、私はちらりと横目で彼を見る。そして、目が合った。


別段驚いた様子もなく、ただ佐藤くんが私の方を見ていたから。



「……何?」


その声は、初めて出会った時よりも穏やかで優しい声だった。

それを聞いて、ああ、佐藤くんはきっと乗り越えていける。そう、確信した。


これから、きっと、辛いことがあろうとも。

どんな苦しいことが、待ち受けていても。


きっと、佐藤くんなら越えられるだろう、と。



「11枚の中で、3枚に花のアクセサリが入っていたことを覚えていますか」


「……うん」


3年前。

そう、それを当てはめるだけのピースは、もう揃っていた。


佐藤くんのお母さん、早苗さんが亡くなる前に───薫さんに手紙を渡した。


それだけで、もう答えは出ていた。


あの手紙に、アクセサリを入れたのは、他でもない、薫さんだということ。




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