佐藤くんは甘くない


薫さんは、花屋を営んでいると聞いた。


佐藤くんの誕生日は、6月の28日。


なら、6月の花を知っていてもおかしくはない。

そして、その花言葉の意味も。




「薔薇の花言葉は、貴方を愛します。

 スイカズラの花言葉は、愛の絆。

 スイートピーの花言葉は、私を覚えてください」



そう。

薫さんは、ただ無理してお見舞いをしたわけでも、ましてどうでもいいんだなんて思っていなかった。



自分なりに、佐藤くんとの距離を縮めようとしていた。

ただ、それが遠回りしてしまっていただけ。


だから、佐藤くんに帰ってくださいと言われたときあんなに寂しそうな顔をしていたんだ。


「……きっと、大丈夫です」


「……」


「薫さんも、佐藤くんのことを想ってくれているはずです。だから、」


そこまで、言って。

私は言葉を切った。だから、佐藤くん。

じっと、佐藤くんを見つめると───佐藤くんが、小さく笑った。



「うまくいくか、どうか分からないけど。

 それでも、もう、立ち止まるのは止める。


 あの家に、行くよ」



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