佐藤くんは甘くない


「だから、夏祭りってことか」


「そう。なんとかここは、佐藤くんとひまりちゃんの距離をぐっと近づけておきたいっすね。夏休みなんだから、夏にできるイベントは有効活用しないと」


「……まあ、夏祭りだって理由は分かったけど」


佐藤くんがしぶしぶながら、小さく頷く。

本当に佐藤くんは、ひまりちゃんが話に絡んでくると押しが弱くなっていけない。……はたから見ていて面白いからいいけど。



「祭りなんて久しぶりだなぁ」

「確かに。出店で取った水風船を、瀬尾の顔に叩きつけたことくらいしか覚えてないよ」

「そういえばそんなことしてたなお前!」


瀬尾が怒りをあらわにした顔で、私の方に指を指してくる。ワーこわーい。

憎たらしさ100%の笑みを瀬尾に向けていると、くいっと袖が引っ張られた。


なんだ、と思ってそちらに視線を向けると───顔を伏せた佐藤くんが、蚊の鳴くような小さな声で、言った。


「……じゃあ、もう誘ったの」

「は?」


ここで聞き返す私は、きっと性根が悪い。


佐藤くんはうっと、言葉を詰まらせると控えめに私を見上げて、ばっと視線を逸らして、恥ずかしさでぷるぷる肩を震わせながら、もう一度言った。


「だっ、だから。その、もう誘ったの」

「誰をですか?」


知ってるくせに。

なんて言いたげな目で、私を恨めしく睨んでくる佐藤くん。


あーもう可愛い、可愛い、可愛い。こんなこと言わせちゃおうとするのは私のせいじゃなくて、きっと佐藤くんが可愛いからだきっと。


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