佐藤くんは甘くない
何か、他にある?
ええいっ、今すぐ考えないと佐藤くんが───
「───もう、いい」
佐藤くんの声が、やけにはっきり聞こえた。
それは、とても透き通っていてでも少しだけ低い、不思議な声音。
私の知らない、佐藤くんの声だった。手が、痛い。でも振りほどけない、身体が言うことを聞いてくれない。佐藤くんの声だけが、私の鼓膜を震わせる。
「考えても分からないなら、分からせるから」
じっと、吸い込まれそうなほど綺麗な双眸が私を捉える。その瞳に映った私は真っ赤で、そうとう情けない顔をしていた。
「……あの時は、素直に慣れなくて、言えなかった」
「……」
「本当は、」
ぐっと、手を引かれる。
私の体は、ぴんと張っていた糸が切れてしまったみたいに佐藤くんの方へ引き寄せられていく。
そして、耳元にその声が降りかかる。