佐藤くんは甘くない
佐藤くんとオマツリ
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遠くの方から、太鼓と横笛の囃子の音が聞こえた。
窓の隙間から、ふわりと夏の涼しい風と一緒にのって、声が聞こえてくる。
「こーらー、おっせーぞ結城!」
間違いなく、瀬尾の声だった。
私は、慌てて後ろを振り返って、
「お、お母さんまだ?」
「はいはい、ちょっと待って」
お母さんはのんびりとした様子で、私に巻いた帯を最後にきゅっと締めると、
「はい出来上がり」
ぽん、と背中を押して私を鏡の前に立たせた。
鏡の前には、藍色を基調にした藤の花がちりばめられた浴衣を着る私が、映る。
「わ、さすがお母さん。着付けんのは一流だねぇ」
ひらり、と一度裾をひるがえして回ってみる。うん、わりかし似合っている方だろうきっと。