佐藤くんは甘くない
不可抗力だ、これ。
口から馬鹿みたいな笑みが、こぼれそうになる。
何とか抑えて、ちょんとその紐を持つ。
今なら、死ねる。
嬉しすぎて、絶対、死ねる。
俺が朝比奈さんに見せるように、ちょこっとだけその紐を上げると朝比奈さんはリンゴみたいに赤くなった顔で───直視するには眩しすぎるくらい、可愛い笑みを浮かべるんだ。
ああ、もう。
卑怯だ。
「お祭り、」
「ん?」
「……御伴いたすで、ござんす」
ふっと、朝比奈さんが笑う。ほわほわっと、安心する笑い方だった。
そして、一歩踏み出す。なるべく朝比奈さんの歩幅に合わせて。なるほど、これギャルゲーの効果かも。前の自分ならこんなこと考えられなかった。
ちらり、と数センチ視線の下にある朝比奈さんを窺う。すると、朝比奈さんがあ!と声を漏らした。……今度は何。もう、何が来ても驚かないから。
「どうかした?」
「……あれ?気のせいかなぁ」
首を傾げながら、
「今、瀬尾くんとこはるちゃんが木陰にいたような気が……」
それだけは、嘘だと言ってほしかった。
こんなとこを見られたなら、明日から一体どんな説明をアイツらにすればいいんだろう、絶対からかわれる。