佐藤くんは甘くない
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「……ふー、あっぶねえ」
私は、流れ落ちる冷や汗をぬぐって大きく息を吐いた。
「痛いっつのっ、この野郎!」
「あ、あ、ごめん」
下の方から声がして、視線を向けると瀬尾の頭を押さえつけているのが見えた、というよりも私が押さえつけていた。
慌てて瀬尾の頭から手を離すと、瀬尾ははあとため息をつきながら首を押さえてこきこき鳴らし始める。
「ったく、いきなり押さえるなよ首取れるかと思っただろうが」
「いやーごめんごめん、ひまりちゃんってばいきなりこっち向くから、びっくりして」
あの辺が、きっとひまりちゃんの勘の鋭さを物語っているのだろう。
色恋沙汰には鈍いけれど、人の察知能力はびっくりするくらい上級者だ。
屋台の人ごみに、佐藤くんとひまりちゃんの人影が消えて行ったのを確認してから私はたちがった。