佐藤くんは甘くない
「おいおい、花火から遠ざかってる気がするんですけどー」
「うるさい、口閉じないならなんか歌でも歌ってろ」
「らぶ♡ぱっしょん!あなたがそばにいるだけで、心臓はち切れそうにドキドキ~らぶらぶ~」
「それは歌うな」
全力で嫌そうな顔をする瀬尾に、全力でほろびのうたをお見舞いしてやっていると、前を歩いていた瀬尾の足が止まる。
何だと思って、瀬尾の背中からちらっと顔を出すと、
「わ、あ」
───思わず、声が漏れた。
あれほど木々が鬱蒼としていた場所から一転、視線のすぐ先の視界が開けた場所から───ドン、ともう一度花火があがる。
それはとても儚い花のように、一瞬にして夜空に消えていく。
「すごいすごい!!こんないい場所あったんだっ!」
私は思わず飛び出して、また打ちあがる花火を見上げた。