佐藤くんは甘くない


が、次の瞬間ぐらっと視界が揺れた。


あ、自分の足が絡まったんだと瞬時に理解する。さっきひまりちゃんが転んだ時のように、私の体が後ろに傾くのが分かる。


遠くの方で焦ったように、ハル、と呼ぶ声がした。ああ、だめじゃん瀬尾。







それは、言わない約束なのに。











「───っっ、」


どん、と視界が揺れる。

思わず目を閉じて、衝撃に耐えるもののやっぱり少しだけ痛い。でも、思ったよりも痛みは続かなかった。


ゆっくりと目を開けると、すぐそこで呆れたように頭を掻く瀬尾の姿があった。


「ったく、お前はいきなり何してんだよ」

「あっはっはー、俊敏性を高める運動を……」

「あほか」


吐き捨てるように、そういうと瀬尾は私に手を差し出した。私よりも一回り大きくて、ごつごつした男の人の手。それを見て、私はようやくあきらめがついてしまった。




分かってるよ。
分かってる。

変わらないなんて、無理だって。



< 447 / 776 >

この作品をシェア

pagetop