佐藤くんは甘くない
が、次の瞬間ぐらっと視界が揺れた。
あ、自分の足が絡まったんだと瞬時に理解する。さっきひまりちゃんが転んだ時のように、私の体が後ろに傾くのが分かる。
遠くの方で焦ったように、ハル、と呼ぶ声がした。ああ、だめじゃん瀬尾。
それは、言わない約束なのに。
「───っっ、」
どん、と視界が揺れる。
思わず目を閉じて、衝撃に耐えるもののやっぱり少しだけ痛い。でも、思ったよりも痛みは続かなかった。
ゆっくりと目を開けると、すぐそこで呆れたように頭を掻く瀬尾の姿があった。
「ったく、お前はいきなり何してんだよ」
「あっはっはー、俊敏性を高める運動を……」
「あほか」
吐き捨てるように、そういうと瀬尾は私に手を差し出した。私よりも一回り大きくて、ごつごつした男の人の手。それを見て、私はようやくあきらめがついてしまった。
分かってるよ。
分かってる。
変わらないなんて、無理だって。