佐藤くんは甘くない
ぐるぐる頭の中で考える。
朧げな記憶をたどって、約一か月前の今頃の時間のことを思い出す。
言ったっけ。
言ってないって、言ってない言ってない……あれ?
あー……そういえば、言ったっけ……。
自分が実行委員にされそうな雰囲気に教室が包まれかけたから、思わず立ち上がってそんなことを言って免れようとしたっけ。
「……」
背中にたらたら冷や汗が流れ始める。
先生の目は異様に優しかった。
さながらわが子を迎えるような、父の温かい目をしていた。でも禿げていた。
先生はぽんと、私の肩を優しくたたくと、
「やってくれるな」
なんだかものすごい重圧のこもった声で、言った。
「……ちなみに私が推薦したのって誰でしたっけ」
「瀬尾だ」
…………一か月前の無責任な自分を、これほど責めたことはなかった。