佐藤くんは甘くない
がたん、と音がした。
その音と同時に、並べていた印刷した台本のプリントがコピー機からばらばらと落ちていく。その紙を踏んでしまうのもお構いなしに、私は佐藤くんから一歩、二歩と後ろに下がった。
「……な、んで」
誰にも、気付かれていないと思ったのに。
誰にも、知られていないと思ったのに。
自分ですら欺いていたはずだったのに。
交わった視線を、外すことができなかった。吸い込まれるみたいに、私は佐藤くんの瞳を見つめる。言いようのない焦りと、緊張だけが先走りして、声が出てこない。
……まさか。
まさか、もしかして。
冷たい汗が、背中を伝う。佐藤くんは私とは対照的に、とても落ち着きを払った表情で、言った。
「───あの日、地理準備室で倒れてる結城を助けたとき。
聞いたんだ、まだ恭ちゃんのこと好きなままで、ごめんねって」