佐藤くんは甘くない
ずっと、ひた隠しにしてきた。
例えこれからどんな苦しさが、辛さが、悲しさが押し寄せて私を飲み込もうとしてもそれだけは、言わないと誓ってきたんだ。
それが。
それが、唯一。
「それだけが、私たちが今のまま、幸せでいられる方法だから」
たった、一つ。
瀬尾からこれ以上、何も奪わないで済む方法だったから。
佐藤くんは、私の剣幕に蹴落とされたように言葉を詰まらせた。そして、口を開いて……何も言わず、唇を噛みしめる。
「……分かった、俺は何も聞いてない」
「…………ありがとう」
もう一度、佐藤くんが私を見る。
その表情は、酷く儚げでそして苦しそうだった。たぶん、きっと私はその何十倍も悲痛な顔をしていたに違いなかった。
これで、良かった。
これが、一番いいんだ。
私が、知らないふりをするのが、一番幸せなんだから。