佐藤くんは甘くない


でも、でも私は───好きも言えなければ、嫌いも言えなかった。


どうしても、言えなかった。

突き放すべきだったのに、もう二度と顔も見たくない、守らなくていいって言わなきゃいけなかったのにどうしても、言えなかった。


「嫌いだって、言ったらきっともう、恭ちゃんは二度と話しかけてくれなくなるっ、他人みたいに遠くで見てるだけになるっだから、だから、言えなかったずっと、ずっと言えないままだったっ!!」



あの時、私が女子たちに詰め寄られて堪えていた時。

瀬尾は、自分の気持ちを犠牲にしてまで私を守ろうとした、助けようとした。だから、きっと私が嫌いだって言ったら、私がこれ以上苦しまないようにって、恭ちゃんは離れていってしまう。


だから、言えなかった。

ずっと、言えなかった。


言われるのも、言うもの怖くて、これが幸せなんだって思い込むしかなかった。



「だからっ、私は隠し通すしかないんだ。恭ちゃんが好きだって気持ちをっ」





吐き出すように、私は叫んだ。

もう誰も何も言う人はいなかった。教室が沈黙に包まれる。そして、聞こえた。かすかに音が。私は、ぼうっとその音のしたほうに視線を向けて───止まった。





いつからいたんだろう、ドアの近くに、瀬尾が立っていた。














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