佐藤くんは甘くない
でも、今更変えるのもなんだかよそよそしい。
佐藤くんから突き刺さる痛い視線を浴びながら、私は小さく笑った。
「付き合いませんよ」
「……なんで?」
「それがいいんだって、思える一番の選択だから」
佐藤くんは、何も言わなかった。
笑いかける私の顔を、少しだけ切なそうに目元を伏せる。そして、口元を綻ばせて聞いてきた。
「もう、後悔しない?」
「はい」
「……そっか」
「ありがとうございました。あの時佐藤くんがああ言ってくれなかったら、きっと私は……変わらない関係を保とうって、必死になってました。
だから、ありがとうございます」
「……次こそ、ちゃんと俺に言ってくれなかったら怒るよ」
ぽんと、佐藤くんが私の頭を叩く。
それだけなのに、なぜか私は胸が締め付けられるように痛くなってたはは、と笑い誤魔化しながら顔を伏せる。
佐藤くんは乗せた手をそっと離すと、すっと白い天井の方に視線を向けて、呟いた。
「……もう、結城も瀬尾も、前に進んでる」
「……」
「俺も、そろそろ立ち止まってたら、だめなんだ」
ぎゅっと手を握りしめる。
なぜだか何かを決めたような佐藤くんの横顔が、その時だけ一瞬心に刺さる。