佐藤くんは甘くない
『───私は、佐藤くんが、好き』
私が、そう告げた時恭ちゃんは、やっぱり笑ってくれた。
辛いはずだった。
私よりも何倍も、何十倍も辛いはずなのに、それでも笑ってくれた。恭ちゃんは本当に、どこまでも優しい人だった。
だから、私はそんな恭ちゃんが好きだった。
だった、という言葉が自然と出てきて、自分の薄情さに、不甲斐なさに視界が滲んだ。私は何度、恭ちゃんに謝ればいいんだろう。
これから言う、私の言葉の残酷さに。私は何度、謝ればいいんだろう。
ぎゅっと、恭ちゃんの制服の裾を握りしめる。
『でもね』
恭ちゃんの顔を見るのが、怖かった。でもそれと同じくらい、これからやってくる息苦しさに溺れてしまいそうで。
『でもね、私ひまりちゃんも、好きなんだ。2人が大好き。
佐藤くんは、ひまりちゃんが好きで。きっと、ひまりちゃんも佐藤くんに惹かれてる。
だからね、佐藤くんの隣にいるべきなのは、』
その一瞬だけ、震えが止った。
だから私は、顔を上げて自分ができる精一杯の笑顔を恭ちゃんに向ける。
『───私じゃないんだ』