佐藤くんは甘くない
般若のような顔をした女子たちに、佐藤くんが怯えた表情でずるずる教室の後ろに追いやられている真っ最中だった。
……何してんのよきみら。
ドアのところでその異様な光景に立ち尽くしていた私を、
「結城……っ」
涙目の佐藤くんが気づく。女子たちの壁から逃げるように、私のところに駆け寄るとすぐに背中に隠れてしまった。……なんかこれデジャウなのは気のせい?
私の制服を握りしめて小さく肩を震わせる佐藤くんを見て、それから血眼になって今度は私を囲むように女子たちが群がってくるのを眺める。
一番手前にいた女子が、
「そこを退きなさい結城!」
と声を張り上げる。
その声に同調するように、教室中にそうよ退きなさい!と声が上がる。うわあ、怖いなにこれすごい怖い。
私までじりじり後ろに下がってしまう。
「な、なにどういう状況」
なんとなく察しがついていたけれど、一応聞いてみる。すると、手前の女子がびしっと後ろに隠れた佐藤くんを指さして言った。
「さあ早く決めて、佐藤くん!
───衣装の着替えを誰に手伝ってもらうのかを!」
……限りなくどうでもいいです。