佐藤くんは甘くない
「佐藤くん、ほんとにやる気あるんですか」
ざわつく教室の一角、仕切られたカーテンの内側で私は椅子に座って、佐藤くんを見上げた。
佐藤くんは、着ていた灰色のカーディガンを脱いで、王子役にあるまじき黒の軍服に着替えている真っ最中。……ますますこの劇の趣旨が分からない。
私がそういうと、佐藤くんは羽織ったジャケットのボタンを留める手を、停止させる。
そして、ぶすっと口を尖らせると、
「……あるよ」
拗ねたように、小さな声で反論してくる。
こればっかりは可愛いだけじゃ逃げられないってもんッスよ、佐藤くん。可愛いけど。
「私ばっかり指名されても意味ないッスよ」
「……分かってる。でも」
ちらり、と佐藤くんが私を一瞬見る。
でもそれは一瞬で、ふいっと私に背を向けると、何でもない風を装って、ボタンを留めはじめる佐藤くん。
小さく息を吸う音が聞こえたと思ったら、隠しきれていない上ずった声で、言った。
「……いざ、今日告白するんだって、思ったら。
…………上手く、朝比奈さんが、見れなくて」