佐藤くんは甘くない


その声音から、次の言葉が容易に想像できた。

自然と手に持ったスマホに力がこもる。



『……あの、忙しかったら、ごめん。

 結城に一番に伝えておきたくて、電話したんだ』


だんだん、気持ちが遠のいていく。

聞きたくないはずのそのセリフは、なぜかこんな雨の中ですら鮮明に聞こえてしまう。


『告白、……ちゃんと、できたよ。結城の、おかげ』


そっか、よかった。

佐藤くん、やればできるじゃん。


もっと、心の底から喜びたいのに、何かかがつっかえて私の邪魔をしてくる。




『───朝比奈さんも、俺が、好きだって……言ってくれたよ』




私は、いつの間にか通話ボタンを切ってしまっていたらしい。ぶらりと腕の力を抜く。私は浅くなる呼吸のせいか、息が苦しくて、今にもはちきれてしまいそうだった。

降り注ぐ雨は、なぜだかしょっぱくて。


< 685 / 776 >

この作品をシェア

pagetop