佐藤くんは甘くない
ぽつ、ぽつと円形に波紋を作る雨を見ながら、私は何も考えずに、足を進める。
ローファーも雨でぐしょぐしょで、どこもかしこも張り付いて気持ち悪い。せめて、この雨が私の涙を隠してくれることが、唯一の救いだったのかもしれない。
ぽつ、ぽつ。
また一つ、二つ、と黒く染めた地面に波紋を作っていく。
そして、また一歩進めた、その時。
「───ハル」
とん、と頭に温かなものが当たる。
その声が聞こえた途端、地面にたたきつけられていた波紋ができなくなっていた。上のほうから、ぼたぼたと何かで雨を退ける音がして、私は顔を上げる。
「おかえり、ハル」
そこには、私に傘を向けて優しくほほ笑む、恭ちゃんの姿があった。
「きょう、ちゃ……」
本当に、嫌になる。
恭ちゃんの顔を見た瞬間、また目頭が熱くなってきてしまう。