佐藤くんは甘くない


ぽつ、ぽつと円形に波紋を作る雨を見ながら、私は何も考えずに、足を進める。

ローファーも雨でぐしょぐしょで、どこもかしこも張り付いて気持ち悪い。せめて、この雨が私の涙を隠してくれることが、唯一の救いだったのかもしれない。


ぽつ、ぽつ。

また一つ、二つ、と黒く染めた地面に波紋を作っていく。


そして、また一歩進めた、その時。







「───ハル」



とん、と頭に温かなものが当たる。

その声が聞こえた途端、地面にたたきつけられていた波紋ができなくなっていた。上のほうから、ぼたぼたと何かで雨を退ける音がして、私は顔を上げる。


「おかえり、ハル」


そこには、私に傘を向けて優しくほほ笑む、恭ちゃんの姿があった。


「きょう、ちゃ……」


本当に、嫌になる。

恭ちゃんの顔を見た瞬間、また目頭が熱くなってきてしまう。


< 686 / 776 >

この作品をシェア

pagetop