佐藤くんは甘くない
佐藤くんとウヤムヤ
それは、修学旅行を控えた10月中旬に起こった。
「……はあああああぁああああああああああああああああああああ!?」
私は驚きのあまり立ち上がり、テーブルを手のひらでたたき付ける。勢いのよさに、がたん!と大きくテーブルの上に置かれた水がコップごと揺れる。
前に座るのは、決まりが悪そうに肩をしゅんとさせる佐藤くん。そして、その隣に苦笑いを浮かべる恭ちゃん。
「……その、いろいろ……自分なりに頑張ってみたりとか……その、したんだけど……」
佐藤くんが私の顔色を伺うように、ちらちら見上げてくる。私は重くなる頭に手を当てて、一応聞いてみる。
「たとえばどんな?」
「あ、朝自分から挨拶するとか」
「……」
「お昼にこんにちはの挨拶してみる、とか」
「……」
「お、思いっ切っておやすみメールしてみるとか……っ」
「挨拶しかしてないよ!!」
私は愕然と立ち尽くしたまま頭を抱えて、ううううと唸るほかなかった。店内から浴びる視線なんて気にならないくらい、衝撃の事実だったのだ。