佐藤くんは甘くない

***


「あー、くっそまた負けたぁ!」

「恭ちゃんあいっかわらず顔に出やすいなァ。分かりやすすぎて、ウノが最早顔芸大会になってるレベル」

「な! そんなはずっ、そうだよな佐藤?」

「……」

「何で顔を逸らすんだよ!」

ガッデム!と絶叫しながら、手持ちのカードを机にまき散らして、顔を伏せる瀬尾。


修学旅行当日。


天気にも恵まれ、絶好の修学旅行日和で迎えた。

新幹線の車内の中で、座席を向い合せにしてひまりちゃんと私、恭ちゃんと佐藤くんのペアで簡易の座卓を広げ、白熱していたのは佐藤くんが持ってきていたウノだった。


私と恭ちゃんはそういうものを持ってくる、という思考に至らなかったあたり、感謝すべきだろう。たぶん、今日のホテルでもきっと白熱したバトル(アイスを賭けた)が展開されるんだろうなァ、と思いながら涙目でぐすぐすしている恭ちゃんにいつまでしょげてんのさ、と頭をはたいてやった。


「あ、じゃあ……勝ったこはるちゃん、命令どうぞ」


そういいながら、持っていたチョコレートを差し出してくれたのはひまりちゃん。

それをありがたく受け取る。視界の隅で、ぴくっと佐藤くんの肩が大きく跳ね上がったことを私は見逃さなかった。


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